日本農業新聞は、東京大学大学院、宮崎大学と共同で、アフリカ豚熱の主要な侵入源となり得る豚肉製品の違法持ち込みについて、訪日中国人248人にアンケートをした。2・8%が250グラム~2キロの豚肉製品を持ち込んだと答え、推定で少なくとも年間17万人の訪日中国人が違法に肉製品を持ち込んでいる恐れがあることが分かった。調査した研究者らは水際対策や啓発の強化を呼び掛ける。
訪日中国人の2・8% 水際対策が急務
共同研究は、東京大学大学院農学生命科学研究科の杉浦勝明教授や宮崎大学農学部獣医学科の関口敏准教授ら研究者や本紙記者ら12人で行った。研究結果は英語の論文にし、海外の科学誌で16日までに公表された。
アフリカ豚熱がまん延する中国から日本への侵入が危ぶまれることから、豚肉製品の持ち込みの実態を把握するため、中国人旅行者にアンケートを実施。無記名、自記式で、大阪や東京の観光地で昨年8月に調査。精査し、同じ条件で回答した248人の結果を分析した。
その結果、2・8%が豚肉製品を持ち込んだことがあると答え、持ち込みは「簡単だ」「少し簡単だ」と考える人は12・9%に上った。「極めて難しい」は44%で、半数を下回った。
また、豚肉製品の持ち込みに対し「違法性を十分に認識している」と回答した人は44%と半数を下回った。一方、2・8%が違法であるという認識をしていなかった。
研究チームは、持ち込みに影響を与える要因を特定するため、回答者の属性や違法性の認識などを独自に分析。持ち込みが難しいと考える人ほど持ち込みを控え、違法性の認識の高い人ほど持ち込みが難しいと考えていることが分かった。
調査結果を法務省の出入国データを基にした年間訪日中国旅行者数(2018年、約600万人)に基づいて推定すると、推計で年間約17万人の中国人旅行者が肉製品を持ち込んでいることになる。空港の探知犬や税関職員による尋問で摘発された豚肉製品の違法持ち込み者数を大きく上回る結果だ。
調査は観光地で行っており、杉浦教授は「調査対象は観光客が多いが、日本に住む家族や親戚、知り合いがいる訪日中国人だけを対象とした調査にすれば割合は高まる」と指摘する。
杉浦教授は、一層の水際対策の徹底や食品残さ飼料(エコフィード)の安全性確保に加え、農家や地域の防疫対策(バイオセキュリティー)強化を呼び掛ける。既に国内にアフリカ豚熱のウイルスが持ち込まれていることを前提にした防疫対策の必要性を指摘する。
日本農業新聞は今回の共同調査に先立ち、本紙独自で昨年5月中旬~6月上旬にアフリカ豚熱発生国から来た訪日外国人202人に聞き取り調査をしている。本紙調査で肉製品の持ち込みは8%だったが、共同調査は2・8%。この差は、独自調査は肉製品全体の持ち込みを聞いたため牛肉や鶏肉を持ち込んでいる人がいたが、共同調査は豚肉製品に限ったことや、農水省や各国の啓発が奏功したことなどが考えられる。
調査結果や分析をまとめた論文は、獣医の疫学分野では最も権威のあるオランダの国際的な科学雑誌『Preventive Veterinary Medicine』の3月分に審査を経て、公表された。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース